写真は鉄で出来ている。

撮らない豚はただの豚だ

通達048 「 貨物列車とキヤ検と。 ある、男の祝日 」

この記事をご覧いただき、ありがとうございます。

 

 

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男は寒さに凍える指先をこすり合わせながら、腕に巻いた時計を見やる。

予定時間まであと2分。

 

おもむろに首から下げた愛用の一眼レフカメラ

暖まらない指で掴み、ファインダーを覗く。

吐く息が、男の眼鏡を曇らせる勢いで立ち昇る。

 

男の立っている場所は、東海道本線島本駅

近年無視出来なくなった京都ー大阪間の人口増加に対応して

新規に開業した駅であり、新駅のパターンに乗っ取って

複々線の中線部分に島の様に造成された駅である。

 

従って、複々線の外側を走る列車を被写体として撮影する場合、

遮る架線柱などが無くスッキリと撮影できるという利点があった。

 

 

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男の目に、2つの輝きが映る。輝くオレンジの光は、ほの暖かな印象を男に与える。

 

最近の車両に搭載されたLED灯はどこか冷たい感触だが、

蛍光灯の様なオレンジ色をしたヘッドライトは男に安らぎを与えていた。

 

「来た。」心の中でそうつぶやくと、ピントを置いた位置を確認し

再度、手持ちのカメラを構えアングルを確かめる。

 

あれは、EF210

男の狙う列車に先行して来る予定の貨物列車だ。間違いない。

 

気負うことなくシャッターボタンを押しこみ、

数瞬の後、男の側をコンテナ貨車群がゴトゴトと音を響かせながら通り過ぎる。

 

 

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2017-02-11 第1059列車  島本

 

岡山機関区所属のEF210 10号機。EF210の初期車はパンタグラフが下枠交差型、

通称クロスパンタと呼ばれる形態で、

他のJR世代機関車に搭載されたシングルアームタイプと違い

受け継がれてきた国鉄型の血統を感じさせる。

 

デジタルAF一眼のカメラもコンパクトタイプカメラ同様、

撮影した画像をその場で確認することが出来る。

 

男は画像を呼び出し、たった今撮影した画像を確認すると、

いささか不満そうな表情でカメラの設定を弄り始めた。

恐らく今の貨物列車は練習で撮影した様だ。納得のいくように設定を変更するのだろう。

 

 

 

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しばらくすると、

前方から4灯のライトが光るのが見えた。

キヤ141だ。

 

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2017-02-11 回9915D  島本

 

この日、向日町の車両基地から出区したキヤ141第1編成は

北方貨物線を経由して大阪へ至り、東海道本線米原まで上る検測を予定していた。

男はそれを撮影するため、

早朝の甲種輸送を撮影した後この駅へとやってきたのであった。

 

しかし男はまだ立ち去ろうとはしない。

 

線路に未だ溶けずに残る雪が、天王山から吹き降ろす風が、

芯からの冷えを増幅させているにもかかわらず

頑なに、何かを待っている。

 

EF210が、キヤ141がやってきた方角を睨み付ける様に見つめていた。

 

 

 

三度、男の手がカメラを構えた。

 

 

ファインダー越しに2灯のライトが近づいてくる。

ピントを置いた位置へ列車の先頭が近づいてくる。

 

まだだ、まだ終わらんよ、じゃない、まだ早い、もう少し。

 

息を殺してその時を待つ。

よし、今!

 

男の指が刹那のタイミングでシャッターボタンを押しこんだ。

 

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2017-02-11 第1083列車  島本

 

車体前部の唇の上に、チョンと残った雪がアクセントとなる

かわいい鯨さんを撮影する事が出来た。

 

カメラを弄る男は安堵の表情を浮かべ、たった今撮影した画像を呼び出しモニターを確認している。

 

 

と、途端に身震いをしてカメラをバックへしまうとトイレへと駆け込んでいった。

寒さに加え、排泄まで堪えていたのだろう。

 

 

 

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男は京都駅へと降り立っていた。

京都駅には今朝始発前にこの駅へやってくる必要があったために、

コインパーキングに車を置いているのだ。

 

しかし、男の目的はそれだけではない。

 

男はカメラを構え、列車を狙っていた。

再び現れたそれは、キヤ141。

 

先ほどの第1編成が今度は検測をしながら現れた。

 

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2017-02-11 試9916D  京都

 

先ほどのキヤ141は順光での撮影ではなかった。

男にとってあれはあくまでの練習。

これが本番だと言わんばかりの真剣な表情である。

 

しかしながら苦難は降りかかる。

 

真昼間の光の中では検測用の下部ライトがさっぱりわからない。

 

しかも男の立つプラットフォーム側に

左手奥より東海道本線の列車が進入してきている。

 

 

被られるな、これは。

そう判断した男はレンズを望遠域にしてすばやく撮影を済ませる。

 

間一髪で被られるのを回避する事が出来た。

 

 

男の撮影はここで終了し、

車に乗り込むと午後の予定を脳裏に思い起こしながら

うんざりした表情でアクセルをふかすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

えー、単なる撮影記に留まらない、ブログの面白い提示の方法は無いかと

思案した結果、私小説風に書いてみました。

 

そもそも昔読んだ太宰くらいしか私小説、知らないんですけどね。

 

 

慣れていないので通常よりも文字数が多く、思いのほか疲れます。

 

 

所で、

四国へ行った2139号機は今日の時点で吹田まで戻って来ましたね。

私は明日も仕事なのですが都合がつけば参戦したいと思います。

 

そう、噂通りなら明日は…

 

 

それでは、

この記事をご覧いただき、ありがとうございました!